こどもの貧困という問題は、このまま解消されていくのか

こどもの貧困という問題は、このまま解消されていくのか

2024.05.19

弁護士の稲田です。
今回は、私があすのばというこどもの貧困に関する財団の理事を務めていることもあり、関心のある「こどもの貧困」という問題について取り上げたいと思います。
私自身、学者ではないので、新しい視点を提示できるわけではありませんが、出来るだけ色々な資料をまとめることで、読者の皆様がこどもの貧困に関する現実を多面的に捉えることにお役立ちいただければうれしいです。
なお、同記事はnoteで公開しているものの簡略版になります。
よろしければ、そちらもご覧ください。

まずは、こどもの貧困率についてご紹介します。

厚生労働省 2022年 国民生活基礎調査の概要 14頁 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa22/dl/01.pdf

同上

上の表と図から、たしかに、ここ10年で「子どもの貧困率」が落ちていることが分かります。
ただし、この10年で可処分所得の考え方について、旧基準から新基準への変更があり、単純な比較はできない点、注意が必要です。
また、貧困率は、等価可処分所得という収入関係の数字で決まるため、物価高等を背景に上がっていっている支出の面を捉えられていません。
さらに、上記国民生活基礎調査においてこどもの貧困率が改善されていっているのは、三菱UFJリサーチ&コンサルティングによれば、以下の背景があると分析されています。
https://www.murc.jp/wp-content/uploads/2023/08/seiken_230814_02_01.pdf

1.稼働所得の増加
①特に所得の低い層の賃金が緩やかに上昇
②共働き世帯や共働き正規職員世帯が増加

2.大人1人世帯の貧困率は限定的
2018年から2021年にかけて等価可処分所得100万円以下の層は、増加

そして、報告書では、以下のように述べて政策支援が必要と記載しています。

子どもの貧困率の改善は労働市場や働き方変化に伴う稼働所得の上昇が主因であり、社会保障等の充実によるものではない。またひとり親世帯については、最貧困層が増加してしまっていることが懸念材料である。最近の米国の研究では、小さな頃に勤労税額控除(Earned Income Tax Credit)によって再分配を受けていた子どもは、大人になってからの貧困率も下がることが確認されている。また同じく米国では、子ども税額控除(Child Tax Credit)によって子どもの貧困率を大きく削減できたことが確認されている。ひとり親世帯の最貧困層が増えていることを踏まえて、日本でもより効果的な再分配政策を検討する必要がある。

また、同社の報告書では、非経済的要因についても対策を勧めています。
この点、教育の格差や体験の格差など、好転していない指標が数多くあります。
紙面の関係上、こちらの記事では言及を避けますが、以下のようなサイトで情報を入手することができます。

日本財団
2018年「家庭の経済格差と子どもの認知・非認知能力格差の関係分析」
https://www.nippon-foundation.or.jp/app/uploads/2019/01/wha_pro_end_07.pdf

Chance for Children
「子どもの『体験格差』実態調査」
https://cfc.or.jp/wp-content/uploads/2022/12/report_taikenkakusa.pdf

こども家庭庁
令和5年度「こどもの自殺の多角的な要因分析に関する調査研究」報告書
https://jscp.or.jp/assets/cfa/R5_cfa_suicidereport.pdf

3keys
日本のこどもたちは幸せなのか
https://3keys.jp/issue/e01/

こどもの貧困率という指標が重要である点については、異論ありません。
そして、それについては、喜ばしいことに改善していっていますし、今後も改善傾向です。
しかし、もう少し詳細にデータをみますと、特に厳しい経済状況にあるこどもたちが貧困にあえいでいる現実があります。
こどもの貧困は解消されていくか、という冒頭の問いについて、私の答えのようなものは、以下のものになります。

解消されていっているが、今のままでは経済的要因のみに着目したとしても、こどもの貧困は、解消される(=ゼロになる)ことはない。
これは、解消していっているのが共働きの増加といった要因が大きいからであって、共働きがしにくいひとり親家庭や就労経験に乏しい家庭等におけるこどもの貧困は解消されにくい状況にあるから。
加えて、物価の上昇を踏まえると数字ほどにはこどもの貧困は解消していない。
さらに、非経済的要因については、むしろ状況が悪化しているものもある。
以上のことから、より強力にこどもの貧困の解消に向けた政策を推し進めるべきである。

この関係で、あすのば等は、子どもの貧困対策推進法の改正に伴い、提言活動等を行っています。
そして、もしかしたら、「貧困の解消」が法律に明記されるかもしれません。
以上、読んでいただき、ありがとうございました。
よろしければnoteにて、もう少し詳細な記事を作成しましたので、そちらもご覧ください。

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