なぜ、私はビジネスと社会貢献を「越境」するのか? ミンツバーグの言葉が導く、変革への視点

なぜ、私はビジネスと社会貢献を「越境」するのか? ミンツバーグの言葉が導く、変革への視点

2025.07.14

執筆:樽本 哲(インテアス法律事務所)

こんにちは。インテアス法律事務所の代表弁護士の樽本哲です。

私が「枠を超える」理由、事務所の想い

私たちインテアス法律事務所は、「Intelligence(知性)」と「未来(あす)」を組み合わせた「インテアス」という名を冠し、日々の業務に臨んでいます。どんな困難にも「Challenge(挑戦)」し、常に「Equity(公正さ)」を追求し、そして未来を「Share(分かち合う)」ことが、私たちの活動の指針です。 私の仕事のフィールドは、一般的な弁護士のイメージとは少し異なるかもしれません。営利企業(ビジネス)の法務を担う傍ら、NPOや公益法人といった非営利組織(ソーシャル)の支援、さらにはフィランソロピー(社会貢献活動)のアドバイザリーも提供しています。

ミンツバーグが教えてくれた「社会の新しい見方」

なぜ私が、一見異なるこれらの分野を「越境」しながら活動しているのか。その答えは、現代経営学の巨人、ヘンリー・ミンツバーグが提唱する「多元セクター」という概念に深く根差しています。

去る5月、ミンツバーグ氏がISL・至善館大学院大学を訪れ、野田智義学長とISL卒業生との対話のセッションに臨みました(私はオンラインで視聴しました)。ミンツバーグ氏は社会を、公共セクター(政府)、私的セクター(営利企業)、そして多元セクター(NPO、コミュニティなど)の3つから成ると説きます。多元セクターは、社会共通の利益や関心事を追求し、協力とコミュニティとしての機能を果たします。ミンツバーグは、この多元セクターこそが、政府や市場の論理だけでは解決できない社会の多様なニーズに応え、社会全体の健全なバランスを保つ上で不可欠な存在であると強調しています。

どのセクターに所属していようとも、それぞれの役割やモードを使い分けることで、誰もが枠にとらわれずに多様な価値観を社会の中で体現できるはず。その媒介となるのがまさに多元セクターを構成するNPOやコミュニティです。私は改めてミンツバーグ氏の提唱する多元セクター論の核心に触れ、自身の活動の意義を深く認識することができました。

経営も組織も「生き物」として向き合う

ミンツバーグ氏は、対話のセッションの中で、「マネジメントは科学ではなく実践だ。アート、クラフト(経験)、サイエンス(エビデンス) の3つがかみ合ったところが経営であり、クラフトがマネジメントの中核だ」と強調されていました。私の至善館での学びは、まさにこの「クラフト」を重視し、頭だけでなく、現場での実践と内省、そして人への共感や情熱を重視するものでした。同氏はまた、「組織を工学的な機械ではなく、育てるべき生態系と捉える」べきだとも提言しています。そして、誰かが組織をデザインして人に押し付けるということは根本的に間違っているとも述べていました。

私は一般社団法人全国レガシーギフト協会の共同代表を務めており、弁護士としての知見も活用しながら、遺贈寄付の健全な普及を目指し、地域に根差した遺贈寄付の循環の仕組みづくりに取り組んでいますが、これはいわば同氏の生態系論を実践しようとする試みとも言えます。

「こうあるべき」より「生まれてくる」戦略

そして、ミンツバーグ氏は、「戦略は策定するもの」ではなく、「出現し、進化するもの」だと強く主張されていました。現場でのリアルな経験から生まれる洞察こそが、真の戦略を形作るというのです。私の多岐にわたる活動も、この言葉に通じるものがあります。営利企業での経験が多元セクターの課題解決に役立ち、フィランソロピーでの知見がビジネスのあり方を変革するヒントとなる。まさに、それぞれのセクターでの実践から新たな戦略が「出現し、進化」しているのです。

実践は試行錯誤の連続

私は、認定NPO法人フェアトレード・ラベル・ジャパン(FLJ)でも共同代表を務め、組織のエンパワメントを通じて、国際フェアトレード認証の普及と組織基盤強化をサポートしています。他にもいくつかのNPOで理事や監事として活動しています。これらは私にとって、営利セクターの知見を非営利領域にどう活かすかという、まさに実践と試行錯誤の場です。ミンツバーグ氏の言葉は、その指針として大きなヒントを与えてくれます。
また、当事務所に併設するミクスト株式会社では、キフタントというサービス名称で寄付や社会貢献のアドバイザリーを提供しています。昨年5月からは、社会から厳しい批判に直面したある企業が設立した一般社団法人に対して、フィランソロピー活動や組織づくりの伴走支援を行っています。過去と向き合い、謙虚な姿勢で社会貢献を目指すその一歩一歩を支える中で、私的セクターが多元セクターと信頼関係を築き、協働することの難しさを日々実感しています。

葛藤とともに、あるべき明日を「共創」する

このような幅広い分野への貢献には、膨大な学びと多様なセクターの人々との対話が不可欠です。それはときに、弁護士としての専門性を深めることと相反する道であるように感じられることもあり、迷いや葛藤も生じさせます。しかし、それぞれのセクターが持つ論理や価値観を深く理解し、その越境を通じて新たな価値を生み出すことこそ、今の自分に求められる役割ではないかと感じています。
多様な価値観が混じり合うことで新たな価値を生み出す社会の実現に力を尽くす。インテアス法律事務所は、そのためのプラットフォームとして、あるべき未来に向けて歩んでいきます。

参考文献
•ヘンリー・ミンツバーグ『リバランス・ソサエティ:左でも右でもなく、社会の根本的な再生を目指す』(2015年)
原題: Rebalancing Society: Radical Renewal Beyond Left, Right, and Center

•ヘンリー・ミンツバーグ『マネジャーとは何者か:マネジメントの神話を破壊する』(2004年)
原題: Managers Not MBAs: A Hard Look at the Soft Practice of Managing and Management Development

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