「ジェンダーギャップは人権問題だ」と思うのだが・・・。
2024.07.14
1 はじめに
「ジェンダーギャップは人権問題だ」、と私は考えています。しかし、これがどういう意味かは意外としっかり説明しないとわかりません。なので、私なりに説明したいと思います。
2 人権問題だ、ということの意味
人権問題だ、ということの一番の意味は、人権侵害の救済において、救済される側は何の対価も求められないということです。人権侵害をなくすことだけが目的で、それに尽きるということです。以下で、詳しく述べます。
国家による平等権という人権の侵害は許されない。これが憲法14条が直接的に定めていることです。ただ、憲法14条の趣旨は、対国家にとどまらず、私人間にも民法の一般条項を介して間接的に適用されます。これを前提にして、対国家や一般社会において、性別を理由にした合理的根拠のない差別が存在した場合、それは一体どういうことを意味すると思いますか。
差別を定める法律が違憲であれば違憲な差別を定める法律が無効になります。一般社会において差別があれば、それは違法になり差別した者には損害賠償義務が生じます。
何が言いたいかというと、差別の解消は、何の対価もなく実行されるということです。法律を違憲にしてあげる代わりに差別されてた人は今後は差別されないように努力しなさいね、とは言われないのです。差別していた私人が損害賠償債務を負う代わりに、差別されていた人は社会に対しなんらかの貢献をする義務を負わされることもありません。
3 人権問題は、経済問題ではない。
1の裏返しでもありますが、人権問題は人権侵害の解消をその目的としています。ですので、ジェンダーギャップを解消するにあたり、社会に対して経済的メリットをもたらす必要はありません。
ジェンダーギャップ解消を論じるときに、ジェンダーギャップ解消の各施策には日本経済を立て直す力がある、あるいは、ジェンダーギャップ解消を含むダイバーシティの推進は今までなかったアイデアを生み出し産業を活性化させるということが、合わせて論じられることが多いと思います。
これ自体は悪いことではないのですが、このような経済的メリットを追求するあまり、ジェンダーギャップ解消に経済的メリットがないと認めないという考えにつながっているところに問題があります。さらに、実際にジェンダーギャップ解消の施策に経済的メリットが生じなかった場合に、施策自体を批判し、差別の残る現状を肯定することもあります。バックラッシュといわれるものです。
ジェンダーギャップ解消に尽力している、女性経営者、女性弁護士の発言には、この視点がよく見られますが、男性側でそのような発言をしている人は相対的に少ないと思います。そして、男性側の方が、ジェンダーギャップ解消に経済的メリットを求める傾向にあると思います。ジェンダーギャップ解消においては、男性側が特権側であり、特権側は自身の特権に無自覚ということでしょう。
4 企業における位置づけは
企業におけるジェンダーギャップ解消の施策についても上記2の観点が影響しています。
企業の業績向上に寄与しないジェンダーギャップ解消の施策は認めないということになりがちです。
しかし、考えてもらいたいのは、業績向上は企業の真の目的か、という点です。企業理念に、金儲け、とか、利益追求、と記載している企業はないのではないのでしょうか。
つまり、企業におけるジェンダーギャップ解消は、企業理念に記載されるべきレベルの目標だということです。企業の存続にとって業績向上、利益追求は必要ではありますが、企業の存在理由や、企業理念ではないはずです。
どれだけの企業が、企業内部のジェンダーギャップ解消という企業理念を保持しているでしょうか。