松本人志氏と文春の件を、弁護士が少し考えてみました。その2

松本人志氏と文春の件を、弁護士が少し考えてみました。その2

2024.05.08

 松本人志氏の性加害報道も一時期より随分と落ち着いてきましたね。
 しかし、時間が経ったというだけで忘れてしまうのも問題ではありますが。
 さて、以前の私のコラムの続きですが、本件に関連して語られることの多い「裁判で結論が出ていない現時点で推測をすべきでない」との考え方について私の意見を述べたいと思います。
 この考え方、一見正しいように見えますね。
 でも、私は下記の2つの意味で違和感があります。

 まず、一つ目です。裁判の結論が出ずとも、松本人志氏が認めている事実関係や客観的な証拠がある事実関係も存在するため、そこから皆さんの常識に従って推論をすることは問題がないと私は考えています。例えば、既婚者である松本人志氏が、他の仕事仲間が手配する形で、一般の女性を集めて、ホテルの一室で男女の飲み会を複数回開催していたこと、がそれに当たると思います。この事実関係が皆さんの感覚からしてこれが適切かどうかについて、それぞれが推論をすることはよいと思います。もちろん推論が飛躍しているのはだめですが。
 一方で、当事者間に食い違いがある事実については、これを根拠なく認定し、それを前提に議論するのは不適切です。例えば、女性側が主張する発言の存否、性加害の存否、飲み会の最中参加者のスマートフォンが没収されていたかどうかなどについては、双方の主張が食い違い、客観的な証拠もないため、これらの事実を前提とした議論は避けるべきです。

 次に、二つ目です。そもそも裁判で取り上げられる事実は、世間の関心事となっている全ての事実ではないということです。本件の訴訟はあくまで、松本人志氏が週刊文春に対して提起した名誉毀損事件です。そこでは、松本人志氏が主張する1つの飲み会において、名誉毀損の事実があったかどうか、事実の公共性、目的の公益性、真実性または真実相当性が判断されるだけです。
 背景事情や関連する飲み会についての主張も当事者はするでしょうが、それらの存否を裁判所が逐一認定するわけではありません。名誉毀損に基づく損害賠償請求が認められるかを判断するのに必要な事実だけが認定されます。
 つまり、皆さんが関心を持っている事実が本当に裁判所で判断されたかは判決を吟味しないと分からないのです。さらには、裁判での勝った負けたで、松本人志氏の行為のすべての善悪が決まるわけでもありません。
 裁判所が全部明らかにしてくれるとなんとなく思っていると肩透かしをくらうかもしれないので注意が必要ですね。

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