本能か、能力か。Generativityが組織と社会を成長させる

本能か、能力か。Generativityが組織と社会を成長させる

2025.09.16

執筆:樽本 哲(インテアス法律事務所)

組織の持続的な成長、そして社会の繁栄。これらは、日々の業務や法務の世界で私たちが追求するテーマです。
しかし、その根底には、個々の人間が持つGenerativity(ジェネラティビティ)という、深く、そして普遍的な心の働きがあると考えます。

著名な心理学者Erik Eriksonは、人生を8つの発達段階に分け、それぞれの段階で乗り越えるべき課題を提唱しました。
その中で、中年期以降の最も重要な課題として位置付けたのがこのGenerativityです。
これは、単に自らの利益を追求するのではなく、「次世代のために何かを遺したい」と願い、創造性や生産性を発揮することで、次の世代に良い影響を与えようとする心の働きを指します。
もしこの課題を達成できないと、自己中心的で停滞した状態に陥るとEriksonは説きました。

このGenerativityとは、単なる倫理観や教育で身につくものではなく、生物として子孫を存続させようとする本能的な利他性を基盤としています。
そして、人間は社会の中で、この本能を「組織や社会全体への貢献」という形で昇華させ、より洗練された能力として発揮してきました。
このコラムでは、このGenerativityが、組織、そして社会において、いかに重要な役割を果たすかをお伝えします。

1. 組織内のGenerativity

現代の組織で求められるのは、個人の目標達成だけではありません。
自らの職務を超えて、組織の効率性を高める自発的な行動、すなわち組織市民活動(OCB)※が重視されています。

  • 後輩の育成

  • チームのナレッジ共有
  • 部署横断的な協力
  • これらはすべて、個人が「組織の未来のために」というGenerativityの精神から起こす行動と言えます。自分の成功だけでなく、組織全体の成功を願う利他的な姿勢が、エンゲージメントを高め、組織の活力を生み出します。

    ※組織市民活動(OCB)とは、従業員の正式な職務や評価対象には含まれないものの、組織の機能や効率性を高める、自発的で利他的な行動の総称です。
    組織市民活動(OCB)の提唱者であるデニス・オーガンは、これを「組織の報酬システムによって直接的、かつ明白には認められないものの、組織の機能にとって有益な、自由裁量の行動」と定義しました。
    これはまさに、Generativityの精神が具体的な行動として現れたものと言えるでしょう。
    しかし、個人が「組織の未来のために」Generativityの精神を発揮し、自律的に行動するようになるには仕組みが必要です。仕組み化のために何が必要か。これについては別の機会に解説します。

    2. 組織を超えたGenerativity

    企業は社会の公器であり、その持続可能性は組織の外にも影響を及ぼします。事業承継やM&Aは、まさに組織を超えたGenerativityが試される場面です。
    事業承継は、単なる資産や経営権の移転ではありません。創業者や経営者が築き上げてきた事業の魂、従業員や取引先との絆、そして社会に対する責任を次世代に託す行為です。また、M&Aも、単なる企業の買収ではなく、譲渡側の事業や技術を存続させ、シナジーを生み出すことで、新しい価値を創造し、社会全体に貢献するGenerativityの行為と捉えることができます。私たちは、法的な手続きを通じて、組織の枠を超えた想いと価値の継承をサポートします。

    3. フィランソロピーにおけるGenerativity

    Generativityの最も高次な発現の一つがフィランソロピー、すなわち社会貢献活動です。
    長年にわたり事業を成功させた経営者や、財産を築いた方が、その一部を社会の課題解決のために使うことを決めることがあります。これは、子孫や組織の枠を超えて、「より良い社会を次世代に遺したい」という利他的な心の究極の形と言えます。私たちは、企業や経営者のフィランソロピーのための事業構想・組織作り・運営支援を通じて、そのGenerativityを具体的な仕組みとして実現し、持続的な社会貢献活動へと結びつけるお手伝いをしています。

    Generativityは、当事務所が日々の業務で向き合う、相続、事業承継、M&A、そして社会貢献活動の全てを貫く、普遍的な原理だと私は捉えています。それは、人間が生まれながらに持つ利他性の本能を、高度な社会性によって磨き上げた能力であり、次世代に繋いでいくべき財産です。
    当事務所は、このGenerativityを深く理解し、法律の専門家として、あなたの「遺したい想い」を実現するための最良のパートナーでありたいと願っています。
    以上

    次のコラムでは・・・

    組織内のGenerativityを自律的な行動にしていくために
    リーダーが「次世代を育てよう」とメッセージを発するだけでは、社員の行動は変わりません。なぜなら、Generativityを組織に根付かせるためには、組織のコンテキスト全体に組み込む必要があるからです。コンテキストとは、組織を形作るすべての要素、すなわちトップの考え方、文化、制度、そしてツールのことです。抽象的な理念を行動に結びつけるための「仕組みづくり」に他なりません。

  • トップの考え方とビジョン: まず、経営陣がGenerativityを組織のパーパス(存在意義)やビジョンに明確に位置づけることで、全社員が共有すべき価値観として定着させます。
  • 文化: 日常のコミュニケーションの中で、後輩を支援したり、知識を共有したりする行為を称賛し、それが当たり前だと見なされる風土を醸成します。
  • 制度: 人事評価、報酬体系、研修プログラムにGenerativityの要素を組み込みます。「後輩の育成貢献度」を評価項目にしたり、優れたメンターを表彰したりする仕組みを設けます。
  • ツール: 業務で使用するシステムやマニュアルに、知識共有やノウハウの蓄積を促進する機能を実装します。
  • これらの要素が連動することで、個人が「組織の未来のために」というGenerativityの精神から、自律的に行動するようになります。自分の成功だけでなく、組織全体の成功を願う利他的な姿勢が、エンゲージメントを高め、組織の活力を生み出します。組織内にGenerativityを育むOCBを組み込むことは、短期的な成果だけでなく、長期的な組織の繁栄を促す上で不可欠なのです。

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