アイスランドの映画『女性の休日』から考える社会変革の力
2025.11.18
執筆:樽本 哲(インテアス法律事務所)
現在、シアター・イメージフォーラムほかにて上映中の映画『女性の休日』は、単なる歴史ドキュメンタリーとしてではなく、法律家や社会制度に関わる私たちにとって重要な示唆を与える作品です。本コラムでは、アイスランドで50年前に起きた平和的な社会変革の事例を、弁護士の視点から考察します。
1. 法の限界と社会の連帯
この映画が描くのは、1975年10月24日にアイスランド女性の90%が実行した「一日ストライキ」(クヴェンナフリ)です。当時のアイスランドは、現代のジェンダー平等指数世界一位の姿とは似ても似つかない、男性優位の社会でした。女性の賃金は不当に低く、法曹界や政界における地位は厳しく制限されていた時代です。
法律や制度の枠内での解決が困難であった「冬の時代」において、女性たちは立場や政治信条を超えて連帯し、仕事も家事も一切を停止しました。これは、「女性の無償・有償労働が社会の根幹を支えている」という男性社会で見過ごされてきた事実を、国家レベルで可視化する行為でした。
2. 「社会の機能不全」がもたらすパラダイムシフト
女性たちの行動の結果、職場や家庭は機能不全に陥り、男性たちは初めて女性の貢献の大きさを現実として認識しました。これは、既存の社会システムが、特定層の不可視化された貢献(あるいは犠牲)に依存していたという構造的な問題に光を当てた瞬間でした。
法律は社会の規範を定めるものですが、その土台には社会の常識や倫理観があります。法は常に現状の後追いです。社会の「常識」や「意識」が先行して変化しなければ、真の意味での変革は実現できません。この歴史的な連帯こそが、その後のアイスランドにおける平等関連法の整備、そして世界トップクラスのジェンダー平等の実現へと繋がる、決定的なパラダイムシフトとなりました。
3. 現代日本への問いかけ
私たちは、多様な意見が飛び交う現代社会において、いかにして立場の違いを超えて連帯し、より公正な社会、そして家族のあり方を追求できるのかを問われています。
この映画は、暴力や対立に頼らず、勇気とユーモア、そして計算された行動力が、いかにして強固な社会の常識を塗り替えることができるのかを証明しています。これは、紛争解決を担う弁護士の視点からも、社会的な課題解決における「連帯の力」の重要性を改めて認識させられるものです。
4. 結びに
映画『女性の休日』は、過去の物語ではなく、現代日本における賃金格差、キャリア機会、家庭内の無償労働といったテーマを考える上で、極めて示唆に富む教材です。
ぜひ、同僚やパートナー、社会変革に関心を持つ仲間と劇場に足を運び、この熱量を肌で感じてください。鑑賞後には、この社会はどうあるべきかについて、深く語り合いたくなるはずです。
写真はイメージフォーラム。初めて訪れましたがとても居心地の良いミニシアターでした。
